淀千両松の戦死者墓地、整備・保存される

淀(京都市伏見区)の旧幕軍戦死者墓が、2013年、撤去の危機にあったのをご存じだろうか。
最近その顛末を知ったので、紹介させていただく。

慶応4年(1868)1月4日、鳥羽・伏見戦争が勃発。
伏見を撤退した新選組は、薩長軍(西軍)の進撃をくい止めるべく、会津軍・桑名軍・遊撃隊とともに、淀堤の千両松付近に布陣する。
翌5日には激戦となり、多くの者が命を落とした。

新選組の戦死者として、古参幹部・井上源三郎をはじめ、真田四目之進、田村大三郎、古川小二郎、今井裕二郎、三品一郎、小林峰三郎、林小五郎、鈴木直人、水口市松、逸見勝三郎、諏訪市二郎、桜井数馬の名が挙がる。
さらに、山崎丞もこの戦いで重傷を負い、大坂へ退却した後に亡くなったという。
戦後、旧幕方(東軍)戦死者の遺体は周辺に埋葬された。

日蓮宗、大円山妙教寺(現伏見区納所北城堀49)は、旧淀城の跡と伝わる古刹である。
慶応4年1月5日の激戦に巻き込まれ、本堂に砲弾が飛び込んだ。
砲弾が不発だったため焼失を免れるも、壁や柱には穴が残った。
当時の住職・日祥師は、この穴を長く保存するとともに、東軍戦死者の命日には必ず供養するよう弟子に言い残した。

明治40年(1907)、この地にて東軍戦死者慰霊祭が、京都十七日会の主催により執り行われる。
その際、一帯の埋骨地11箇所に石の墓標が建立され、妙教寺を含む3箇所に招魂碑が設置された。
淀堤(八番楳木)の埋骨地は、官有地となっており、木の墓標が立っていたという。
この墓標も、戦死者慰霊祭をきっかけとして、石製のものに取り替えられたのである。

明治期以降、河川改修が進み、宇治川の川筋は東南へ移動した。
明治43年(1910)、旧宇治川の跡に、京阪電車が開通。
大正14年(1925)、旧宇治川の河川敷には、京都競馬場が建設された。

昭和41年(1966)、競馬場の大駐車場が造られることとなり、工事が始まる。
旧宇治川の堤防は必要なくなっていたので、これを崩して埋立土に充てた。

ところが、この工事の最中、工事関係者らが不可思議な体験をする。
現場の宿舎に泊まると、夜な夜な「元の場所へ返せ」という声が聞こえる、というのである。
日本競馬会が妙教寺に照会した結果、東軍戦死者の遺骨が埋立土に紛れ、野ざらしになっているのでは、ということになった。
そこで、競馬会は全国から募金を募り、戦死者墓を整備した上に、記念追悼碑を建立。
昭和45年(1970)、開眼供養が執り行われた。

淀の戦死者墓
淀堤(八番楳木)埋骨地の戦死者墓 (2000年撮影)

さらに時代が下り、平成25年(2013)のこと。
この戦死者墓碑を、現在地から移動するよう、日本競馬会と妙教寺に対して要請があった。
理由は、宅地造成のため。かつて官有地であった墓所は、いつしか民有地となっており、競馬会とは別の所有者のものであったことが判明した。
墓碑が、撤去の危機に直面したのである。

そのような時、所有者である株式会社大与の苗田社長夫妻が、妙教寺を訪問。
当世住職・松井遠妙師は、墓地の由来や経緯を説明し、保存の希望を伝えた。
これがきっかけとなり、苗田氏が買い手の会社に交渉、墓所地が保存・寄進されることに。
結果、正式に妙教寺の所有地となった。
法的手続きに関わる費用、松の植え替えなど墓所整備の費用も、苗田氏が負担されたという。

苗田氏のご厚意、松井師のご尽力により、戦死者墓は今後も末長く残されることとなった。
戦死者の冥福のため、そして戊辰戦争の記憶を未来への遺産とするためにも、幸いであったと思う。


[注記]

  • 妙教寺発行の広報『洛南の鐘』第272号(2014年8月1日発行)を参考とさせていただきました。
  • 淀堤(八番楳木)の戦死者墓は、『ふぃーるどわーく京都 南』に掲載しました。
  • 『ふぃーるどわーく京都 南』は現在、在庫切れとなっております。悪しからずご了承ください。

2014-10-11 : こぼれ話 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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